この事例の依頼主
40代
相談前の状況
先日ずっと疎遠だった父が亡くなりました。遺言書が残されていたので家庭裁判所で内容を確認したところ、どうやら父は生前に養子をもらっていたようで、その養子に全財産を相続させるという内容になっていました。改めて父の戸籍を確認したところ、確かに亡くなる数年前に養子縁組がされています。私はその養子とは全く面識がなく、どういう経緯が養子縁組することになったのかはわかりません。いくら生前ほとんど交流がなかったとはいえ、父が全く血縁のない第三者に全財産を譲ってしまうというのは信じられません。父は騙されていたのではないでしょうか。また、仮にそれが父の本意だったとしても、実の子である私が遺産を全く相続できないというのは納得できません。何か法的にとり得る手段はないのでしょうか。
解決への流れ
弁護士に相談したところ、遺言の効力そのものを争う方法と遺留分減殺請求する方法の2通りがあるが、後者のほうが現実的とのアドバイスを受けましたので、弁護士にお願いして養子側と遺留分減殺の交渉をしてもらいました。相続財産の不動産の評価が分かれるので調停や訴訟になる可能性もあるとのことでしたが、不動産鑑定士に評価を依頼してその結果を養子側に示したところ、調停や訴訟にならずに話合いで早期に解決することができました。当初は遺言の内容にショックを受けましたが、最終的に養子側から法定相続分の2分の1に相当する価格弁償金をもらうことができたので今は納得しています。
相続人が知らない間に遺言が作成されていて、被相続人の死後初めて遺言の存在が明らかになるというのは決して珍しいことではありません。特に、特定の相続人に全財産を相続させる等の不公平な内容であったり、知らない相続人の名前が記載されている場合などには、往々にして紛争に発展します。このような場合、遺言の効力そのものを争う(無効にする)こともできないわけではありませんが、遺言の方式が法定の要件を満たしていない場合を除き、遺言作成当時、遺言者に遺言能力がなかったこと等を証明しなければならないため、一般的に極めてハードルが高くなる傾向があります。そこで、このような場合には、現実的な選択肢として、遺留分減殺請求ができないか検討することになります。遺留分とは一定の範囲の法定相続人に認められた最低限の遺産取得分のことです。遺言がこの最低限の遺産取得分を侵害している場合には、侵害された相続人は、侵害した相続人に対して侵害された分を請求することができます。これは法律で保障された権利ですので、遺留分が侵害されている場合には、侵害した相続人はこれを拒絶することはできません。ただし、遺留分減殺請求権の行使には「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間」という期間制限がありますので、なるべく早めに弁護士に相談されることをお勧め致します。また、これから遺言を作成される方に対しては、後々相続人間で争いが生じないよう、弁護士に相談して遺留分に配慮した内容の遺言を作成されることをお勧め致します。