この事例の依頼主
20代 男性
クライアントは,相手方の運送会社に就職する際,トラックの大型一種の免許を取得していなかったので,相手方の運送会社に,大型一種免許の習得費用約30万円を立て替えてもらい,大型一種免許を取得しました。この大型一種免許の習得費用については,クライアントは,相手方の運送会社との間で,相手方の運送会社に3年間勤務した場合には,免除されるものの,3年以内に退職した場合には,全額を返還しなければならないという誓約書を締結していました。クライアントは,相手方の運送会社に1年半勤務した後,退職することになりました。相手方の運送会社を退職するにあたって,クライアントは,相手方の運送会社から,大型一種免許の習得費用を一括で支払わないと退職させないと言われたことから,分割払いの交渉をしてもらいたいということで,相談にこられました。
労働基準法16条には「使用者は,労働契約の不履行について違約金を定め,又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」と規定されています。すなわち,労働者の退職の自由を不当に拘束する誓約書は,労働基準法16条に違反して無効になるのです。もっとも,交通機関の免許の取得については,労働基準法16条違反にはならない裁判例が多いため,労働基準法16条の規定だけでは,クライアントが支払を免れるのは難しいと判断しました。そこで,クライアントに聞いたところ,トラック運転手として働いていた期間,残業代を支払ってもらっていないことがわかりましたので,未払残業代を請求して,大型一種の習得費用と相殺することを検討しました。相手方の運送会社に対して,就業規則,タイムカード,タコグラフなどの資料を開示するように請求したところ,相手方の運送会社に代理人弁護士が就き,資料の開示に応じてくれました。開示された資料を検討したところ,大型一種免許の習得費用を大幅に超える未払残業代請求ができることがわかりましたので,相手方代理人と交渉して,クライアントは,大型一種免許の習得費用の支払を免れ,クライアントが相手方の運送会社から75万円の解決金を支払ってもらうことで示談が成立しました。
労働者が退職をしたくても,会社から立替金の一括払いをしないと退職させないなど,退職を妨害されることがあります。そもそも,労働者には退職の自由認められていますので,会社の妨害は違法なことが多いです。むしろ,労働者から会社に対して,未払残業代を請求できることもありますので,会社から退職を妨害された場合には,弁護士に相談することをおすすめします。